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データ界隈で働くエンジニアとしての技術的なメモと、たまに普通の日記。

2024/07/22 DATA is BOSS を読んで

先日、一休.comの社長 榊さんによる "DATA is BOSS" という書籍を読みました。Pivot の動画でも3本立てで特集されていますが、最初の1本を見た限りは書籍とほぼ同じ内容を解説されています:

pivotmedia.co.jp

「データは顧客そのもの」

この本は技術書というよりビジネス書なので、分析手法の話もデータマネジメント・データエンジニアリング的な話も詳しくは登場しませんが、ビジネスがどうしてデータ・ドリブンになるべきか、という問いに簡潔に答えています。

それは、「データは顧客そのもの」という文章で端的に表されています。ECサイトでは特に顕著ですが、顧客の行動は全てデータとして収集できるため、データを元に意思決定すること=顧客に適切なアクションを起こすことになります(IoTデバイスの普及に伴い、この図式はWebサービス以外にも適用できるとも)。

また、データ・ドリブンを実践するのはビジネスサイドだとも述べています。ビジネス上の問題を探すのも、活用するのもビジネスサイドが得意とする領域で、昨今の生成AIによってノーコード・ローコードでデータ分析が可能になりつつあります。データ人材とビジネス人材が分業していると、この間で「ボール」が落ちてしまい、なかなかデータ活用に結びつきません。一人で分析から活用まで全てこなすか、リーダー役がデータ人材とビジネス人材を牽引する必要があります。

どの組織に分析機能を持たせるか

この本では、組織構成の観点からも多くのアドバイスがなされているのが特徴です。例えば以下のようなことが書かれていました:

  • データ分析の機能を財務部門に置くと、各事業部門に対してニュートラルな立場を保つことができ、数値に信頼を置くことができる
  • データ分析の重要性を理解し、ポジショントークを必要としない組織体制であれば、事業部門に置くことができる(データ人材とビジネス人材の距離が近く、コミュニケーションが取りやすい)
  • データ分析を全社組織として独立させると、全社施策は行いやすい。しかしターゲット顧客ではなく会社がやりたい施策に目線が向いてしまう

データが信頼できない?→データ分析が足らない

直感や経験を元に判断されることが多い理由として、定性理解と定量理解に相違があることが挙げられています。この場合は顧客の姿が見えやすい定性理解を重視し、定量理解は無視されてしまうとのこと。

この問題に対しては、データ分析の掘り下げが足らないため、もっと掘り下げるべきと述べています。どちらも同じ顧客を見ているので、本来は定性理解=定量理解となるべきで、ここまで至ってようやくデータ=顧客という図式が成り立つのでしょう。

感想

「どうしてデータ・ドリブンになるべきか」という問いに簡潔に答えを出し、組織的な課題や解決策、顧客とデータを通じて対話する方法(ABテストなど)など、重要な考え方がコンパクトにまとめられている書籍でした。

個人的に気になったのは、動画の中での榊さんの発言でした。一休.com では過去10年このやり方で売上を大きく伸ばしていますが、榊社長は「過去10年はこのやり方で通用してきた」とやや控えめな言い方をされていました。一休.com は比較的小さいサービスだともおっしゃっていたり、Yahoo! のような大きなサービスとは違い、という発言も何度かあったことから、サービスが成長するに伴う複雑性の増加と、データ・ドリブンによる意思決定の間にトレードオフがあるのか、今考えているデータ活用推進の仕組みでは足らないと考えているのか・・・事業サイズやドメインによって適切なデータ活用の座組みは違うのかもしれません。

データ領域の課題はほとんど組織論に帰結することが多いなと感じており、榊さんもスタンフォード大学院でデータサイエンスを学ばれていることからも経営陣の意識(それこそ上で述べた、ビジネス人材がデータ活用を主導すべき、という話)が重要なのだと改めて感じました。しかしデータ人材側からも、ビジネスを理解し、共通言語や共通理解を増やすことで協働できる領域を増やせるとも述べられています。エンジニアはエンジニア組織として隔離されがち・・・ということも踏まえて、ビジネスの理解は積極的にアクションを起こさないとな・・・と感じました。